Adjust ignite tokyo 2025 vol3

Adjust Ignite Tokyo 2025:最適なカスタマージャーニーの設計〜ゲーム、メディア、美容医療の視点から〜

「最適なカスタマージャーニーの設計について」と題したパネルディスカッションでは、ルーデル株式会社 執行役員 ソーシャルゲーム事業本部 データサイエンス部 部長 吉永 辰哉氏、株式会社トリビュー マーケティング部 グループマネージャー 冨岡 悠介氏、そして株式会社サイバーエージェント 宣伝本部 アドストラテジー局 マネージャー 中澤 直哉氏が登壇し、それぞれの事業領域におけるカスタマージャーニー設計の考え方と実践について議論を交わしました。MCを務めるAdjust Head of Customer Successの大杉は、AIによる最適なカスタマージャーニー設計ツールが登場する中で、各社がどのようにカスタマージャーニーと向き合っているのか、その「新世界」について語り合う場にしたいと述べディスカッションをリードしました。

各社の紹介とカスタマージャーニーの概念整理

ルーデル株式会社の吉永氏は、ソーシャルゲームの開発・運営を手がけ、執行役員とデータサイエンス部長を兼任。データサイエンスをビジネスに適用することに強みを持ち、「ブルーロック」や「キングダム」などの有名漫画原作ゲームや自社オリジナルIPゲームを展開しています。

株式会社トリビューの冨岡氏は、金融系システムエンジニアとしてキャリアをスタートし、顧客との対話を重ねる中でマーケティングの可能性を実感。現在、国内最大級の美容医療プラットフォームを開発・運営するトリビューで、マーケティンググループを統括しています。トリビューは累計170万ダウンロード、月間37万人以上が利用する口コミ・予約アプリで、美容医療に関する情報の透明性を高め、ユーザーが安心して施術やクリニックを選択できる環境づくりを目指しています。

株式会社サイバーエージェント宣伝本部でマネージャーを務める中澤氏は、プロモーションを軸にキャリアを築き、ABEMAのプロモーションに携わっています。ABEMAは2016年に開局し、まもなく10周年を迎える動画配信サービスで、登録不要・無料で多様なジャンルの番組を提供しています。

MCの大杉は、改めてカスタマージャーニーの概念を「顧客が商品やサービスを知って、購入・利用し、その後の継続、再購入するまでの一連の体験や行動の流れを旅に例えたマーケティング概念」であり、「顧客・ユーザーを理解し、最適な打ち手を打つためのツール」と定義しました。

カスタマージャーニー設計とモニタリング手法

吉永氏は、ルーデルでは、ソーシャルゲームにおけるカスタマージャーニーを大きく新規ユーザーと既存ユーザーに分けて考えていると説明。新規ユーザーは認知からインストール、試用、そしてゲームへの「定着」と「価値実感」をゴールとします。既存ユーザーは、それぞれのプレイ頻度に合わせて動機づけを行い、継続・復帰を経て「価値実感」とゲーム継続を目指します。

吉永氏は、ゲームログによってユーザー行動のトラッキングが可能であり、特に「定着」については、インストール後2日目、3日目、7日目までのログイン継続状況を確認。ゲームの「価値実感」を測る指標として、ゲーム内チャットの利用頻度など、コミュニティにおける交流状況も重視していると語りました。インストール時期や課金額に応じたユーザーの細分化も行っています。

冨岡氏は、トリビューでは、美容医療のカスタマージャーニーを「施術検討」「クリニック選択」「カウンセリング・施術」の3つのフェーズで捉えていると説明。各フェーズでユーザーが求める情報や抱える不安を理解することが重要だと語りました。特に「施術検討」では、漠然とした悩みから具体的な施術を絞り込む過程で、ダウンタイムなどの比較検討が重視されます。トリビューでは、日数ごとの口コミを閲覧できる機能で、検討時の利便性を高めています。また、「クリニック選択」では、ポジティブ・ネガティブ問わず口コミを削除・修正せず公開。ユーザーにとって有益で信頼性の高い情報提供を心がけていると述べました。

美容医療は施術によって検討期間が大きく異なるため、トリビューでは全体最適ではなく、施術やターゲットごとに優先順位を設定。その上でユーザーインサイトを深掘りし、反応率の高いクリエイティブや精度の高いターゲティングを展開しています。

中澤氏は、多様なジャンルのコンテンツと、無料と有料が混在するビジネスモデルが特徴であるABEMAでは、ジャンルごとにカスタマージャーニーが異なると説明。この「多数のジャンルとサービス特徴の掛け合わせ」が、ABEMAにおける最適なカスタマージャーニー設計の鍵だといいます。

また、モニタリングは、設計で終わらせずサービスをグロースさせるために重要だと強調。ABEMAでは、デイリーでモニタリングを行い、問題があれば即座に解決する体制が整っているとのことです。

カスタマージャーニー実践における成果を上げるコツ

セッションの後半では、具体的な成果を上げるための実践的なコツについて議論が深まりました。

中澤氏は、設計、執行、モニタリングの3つが成果を上げる上で重要だと強調。「設計なき執行はない」という考え方を重視設計では、「Who(誰に)、What(何を)、How(どのように)」を徹底的に突き詰めるといいます。

モニタリングは「トラッキングする」ことと「トラッキングに頼らない」ことの2軸でアプローチしており、データクリーンルームの実装やサーバー間連携で一方、ユーザー行動の複雑化を考慮し、MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)などの手法も取り入れ、事業全体のインパクトをしていると述べました。

冨岡氏は、マーケティングにおいてカスタマージャーニーを考える際に重視しているのは、「カスタマー目線」と「手触り感」だと説明しました。美容医療はユーザーの悩みから始まるため、感情の変化に寄り添うことが重要だといいます。トリビューでは、定量調査に加えて定性調査を重視し、マーケティング担当者自らが直接ユーザーインタビューを実施。一次情報から具体的な感情変化を把握し、広告クリエイティブの改善に生かしています。

さらに、質の高いユーザー獲得のために動画フォーマットを積極的に活用。特にSNSでは、インフルエンサーによる体験談を動画で訴求することで、獲得効率の向上につながっていると述べました。

吉永氏は、ルーデルにおけるカスタマージャーニー実践と成果のコツとして、ユーザー目線とデータ分析の2つの要素を非常に重視していると述べました。ユーザー目線は、データサイエンス領域では「ドメイン知識」と呼ばれ、サービスへの深い理解を意味します。吉永氏は「数字だけで語るのはやめましょう」と強調し、分析スキルは前提であり、ドメイン知識によって高精度な仮説を立て、それをデータ分析で裏付けていくアプローチが重要であると語りました。

このドメイン知識とデータ分析を組み合わせた意思決定を、ルーデルでは「データドリブン」と定義しているそうです。吉永氏は、ビジネス現場の感覚や経験から得られる主観は基本的に正しいとし、データ分析は、その仮説が外れることがないよう、数値的な根拠を持って確認するために使うものだと述べました。

新世界のカスタマージャーニー

最後に、登壇者それぞれが「新世界のカスタマージャーニー」について一言ずつ締めくくりました。

吉永氏は、カスタマージャーニーは「サービスの動脈」であり、AIが定型分析を担う中で、ユーザー一人ひとりの心の機微を理解し、ジャーニーを設計するのは人間がやるべき部分だと述べました。

冨岡氏は、広告プラットフォームの機械学習や最適化が進化する中で、自社にとって本当に必要なユーザーを深く理解し、彼らが求め、反応するクリエイティブやマーケティング施策をいかに展開できるかが、これからますます重要になると語りました。

中澤氏は、カスタマージャーニーは「見るべき視点や目線」によって変わるものだと述べ、経路単体、サービス全体、あるいは事業全体といった異なる視点からジャーニーを捉えることで、新たなユーザーへの価値提供や、企業目線での新たなマネタイズ手法が見えてくると指摘しました。

本セッションは、多様な業界におけるカスタマージャーニーの設計・モニタリング手法と、成果を上げるための実践的なヒントが共有され、参加者にとって示唆に富む時間となりました。ユーザー目線やドメイン知識の重要性、そしてデータ分析と経験・勘の適切な組み合わせが、どの業界でも共通する成功の鍵であることが浮き彫りになりました。

Adjustのアップデートまたは製品についてのお問い合わせは、Adjustの担当者またはjapan-sales@adjust.comまでお問い合わせください。取材のお問い合わせはmarketing@adjust.com までお問い合わせください。

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