ガイド
MMM(マーケティングミックスモデリング)解説ガイド
はじめに
デジタルマーケティングにおけるユーザープライバシーを重視する新たな時代の到来を受けて、1950年代に最初に注目を集めたMMM(Media or Marketing Mix Modeling、メディアまたはマーケティングミックスモデリング)は、近年、その有意性が再び急上昇しています。2022年後半には、MetaもMMMの普及率が前年に比べて80%上昇(英語)したことを発表しています。
「Back to Basicsガイド:iOS 14.5以降のマーケティング」で詳しい解説をご覧いただけるように、2021年、AppleがAppTrackingTransparency(ATT)のフレームワークを導入したことにより、ユーザーが計測に対してオプトインしない限り、マーケターがiOSデバイスのユーザーレベルのデータにアクセスすることはできなくなりました。Googleでも同様にユーザーのプライバシー保護を強化するために、クロスアプリ識別子データへの依存を軽減することを目指して、Androidにおけるユーザーデータの第三者への共有を制限するためのAndroid向けGoogleプライバシーサンドボックスのリリース準備を進めています。この背景を受けて再び注目を浴びるようになったのが、プライバシーに配慮したMMM(マーケティングミックスモデリング)です。
以前「再び注目される広告分析:メディアミックスモデリング(英語)」でご紹介したとおり、MMMはデータ分析(アナリティクス)や機械学習を用いた高度な技術の進歩によって昨今大きな注目を集めており、MMMを活用することによってマーケティング予算の配分やその結果を分析し、その後のマーケティング活動に活かすことが可能となります。
MMM(メディアまたはマーケティングミックスモデリング)は、ユーザーレベルによるデータではなく、さまざまなソースやチャネルからの集計データを活用するため、現代やその先のニーズに合う確実なマーケティング計測や分析を行います。このガイドでは、MMMについて知っておきたいことを分かりやすく解説します。
MMMの定義
マーケティングミックスモデリングとは
「マーケティングミックスモデリング(marketing mix modeling)」は「メディアミックスモデリング(media mix modeling)」とも呼ばれ、マーケティング活動がビジネスの投資利益率(ROI)に与える影響の予測や把握をするために使用される統計分析です。多重線形回帰などのデータサイエンスの技法を用いたトップダウン型アプローチが採用されており、エンゲージメントやコンバージョンなどの従属変数(目的変数)と広告費用(英語)のような独立変数(説明変数)との関係を、チャネルを横断して調べます。
MMMのフレームワークにより、デジタル上やオフラインでのマーケティングの取り組みのほか、例えば新型コロナウイルス感染症の流行による影響や、AppleのiOS 14.5のリリース、インフレなどの外的要因も分析に取り込むことができます。キャンペーンによる影響においてチャネルごとに価値を割り当てるため、マーケティングの取り組みの投資利益率(ROI)を把握して今後の広告予算配分などの計画や決定に活用したり、まだ打ち出していないキャンペーンに対してマーケティング予測を行うことができるようになります。
MMMのフレームワークは、次の3つがベースの要素です。
1. 活用しているマーケティングチャネル
2. 各チャネルに費やす金額
3. 過去のキャンペーンによる結果とそのデータ
これがベースとなり、ここに他の要素を加えることができます。今日のデジタル分野におけるMMMは膨大なデータのインプットに対応している一方、取り入れる変数がモデルの有用性に影響を与えます。
MMMで解明できる10の疑問
MMMを活用すると、マーケターは次のような疑問に答えを出すことができるようになります。
- 各メディアチャネルがどれほどのコンバージョンを促進したのか?
- 各マーケティングチャネルにどれほどの投資利益率(ROI)があるのか?
- KPIを最大化するために各チャネルに最適な費用はいくらか?
- チャネルでのキャンペーン実施の仕方に影響力があるのか?(例:広告やクリエイティブ、ターゲティングなどの頻度、等)
- 今後はどの媒体に広告費用を投資するべきか?
- 特定のユーザーセグメントにリーチできる最適なチャネルの組み合わせはどれか?
- チャネルと地域がマーケティングの効果にどのような影響を与えるのか?
- アーンドメディア(ユーザーが情報を発信するメディア)、オウンドメディア(自社で保有するメディア)、有料メディアはどのような役割を果たすのか?
- ROIの最大化のために、キャンペーンやユーザーグループ、地域、タイミング、パブリッシャーなどのカテゴリー別によるマーケティングタッチポイントはどのように最適化できるのか?
- 外的要因が総収益にどのような影響を与えるのか?
このように、MMMによってさまざまなことを知ることができます。MMMのさらに優れた点は、「要因を変更した場合、収益にどのような影響を与えるのか」といった、個々のビジネスにおける疑問を確認することができることです。
下記は、特定のマーケティングチャネルの組み合わせに基づいて収益への貢献度を表す、MMMが作成したグラフです。すべてのマーケティングの取り組みを集約して導き出された投資利益率(ROI)を、1週間あたりのコストと比較しています。
MMMに必要なデータとは
MMMに必要なデータとは
従来のMMMは、Promotion(プロモーション)、Price(価格)、Place(場所)、Product(プロダクト)の「4つのP」を基に構築されていました。モバイルアプリの場合、例えばアプリ自体は無料であることも多々あり、4Pの要素だけでは成り立たないことがあります。MMMの最大のメリットは、取り込めるデータポイントに柔軟性があること。モバイルアプリマーケティングでは以下の要素を含めることをおすすめします。
メディア広告費
モバイルマーケティングにおいて、広告費用を日々モニタリングしてユーザー獲得率やパフォーマンスが高いチャネルを特定することは不可欠です。MMMにメディアなどの媒体に費やしたコストのデータを取り込むことで、マーケティング戦略を全体的に把握することができます。社内のメディアミックスモデルにデジタルチャネルとオフラインのメディアへの広告費データを合わせて取り入れる際は、金額に関するデータが正確、かつ複数にわたるチャネルで一貫性があること大切です。AdjustのROI計測ソリューションなどのツールを活用し、適切に確認してから行いましょう。
シーズナリティ
シーズナリティ(季節要因)はアプリの利用に大きく影響し、キャンペーンのパフォーマンスに確実に影響を与えることができる鍵となるマーケティング要素です。
「2024年旧正月に向けたモバイルアプリにおけるインサイトとマーケティング戦略」でもご紹介のとおり、アプリにリソースがある場合は、例えばアジアでは、旧正月を祝う市場向けにメタデータやアイコン、アプリ内イベントなどを旧正月に合わせてローカライズすることで、季節的な要素(シーズナリティ)をアプリの宣伝に活用することができます。シーズナリティに関するデータをMMMに取り入れると、旧正月などの季節行事の期間中に新たなユーザー獲得したり、ユーザーのエンゲージメントを高めて維持することに繋げられます。
アプリストアでのランキング
アプリストアのランキングは上述した4Pの「プロモーション」に当たり、アプリを見つけてもらうためには重要な要素です。マーケターやアプリ開発者は「アプリストア最適化(ASO)」という特別な戦略を用いて、アプリのランキング順位を全体的に向上させることでアプリストアでアプリを目立たせることができます。
ASOでは、アプリの説明、コンテンツのローカライゼーション、アプリのアセットやスクリーンショットなどに使われる言葉をキーワードとします。継続的にストアでのランキングをモニタリングし、適宜ASOを取り入れて日常的に改善を図る必要があるため、アプリストアでのランキングはMMMに含めるべき重要な要素です。
ASOに関する包括的な情報は、「モバイルマーケターのためのアプリストア最適化完全ガイド」をご覧ください。
プレスリリースや情報発信
プレスリリースなどの企業による情報発信も考慮すべき要素です。PR(広報)による影響力はアプリのカテゴリーによって異なりますが、1日あたりのアクティブユーザー数(DAU)を確認することで、アプリのユーザー行動に影響を与えている発信を特定することができます。アプリのインストール数にブランドのプレスリリースや記事、寄稿やゲスト投稿などが影響を与えていないかを計測し、的確に把握しましょう。
アトリビューション数
MMMにモバイルアトリビューションデータを含めることも大切です。これには、TikTok、Facebook、Google広告などの連携するAPI連携ネットワーク(SAN)からのデータや、モバイル計測パートナー(MMP)のSDKによるデータ、ファーストパーティーデータなどが含まれます。AdjustではiOS 14のユーザー同意を確保するためのオプトインの設計を推奨しています。
マーケティングミックスモデリングとアトリビューションモデルの違い
MMM(マーケティングミックスモデリング)とアトリビューションモデルは、「目標達成」というビジネスニーズに取り組むためのものであることは同じですが、異なる点もいくつかあります。アプリマーケターは現在、シーズナリティや市況、競合他社などの外的要因や、会社の投資利益率(ROI)に影響を与える他の集計データの確認を行いながら、個々のユーザー行動をモニタリングすることで最も価値をもたらすユーザーとチャネルを特定するモバイルアトリビューションに頼っています。一方、MMMを活用すると、よりマクロレベルで全体像を把握することができるのです。
MMMとアトリビューションモデルの主な違いは下記のとおりです。
アトリビューションをモニタリングすることで、キャンペーンに対して最適な結果を得るための軌道修正をリアルタイムに行うことができ、MMMを使用することでさらなるインサイトを取得してビジネスの成果を事前に予測できるため、キャンペーンやマーケティング戦略を的確に計画することができます。また、実店舗とアプリの両方でビジネス展開している場合には、アトリビューションとMMMをマーケティングソースとして組み合わせることが特に役に立ちます。これについては後ほど詳しく解説します。
MMMを使用する理由
MMMのメリット、デメリット、活用例
MMMにおける課題やそれがもたらす機会を通して、MMMがマーケティング戦略にどのような影響を与えるのかを解説します。
MMMを活用した戦略のメリット
プライバシーに配慮して運用できる
プライバシー保護に対するニーズが高まり、世界各地ではプライバシーに関する規制が次々と施行されています。GDPR(EU一般データ保護規則)や、Appleが導入したIDFA(iOS端末の広告識別子)へのアクセス制限、Googleが導入予定のクロスアプリ識別子への依存を軽減するAndroid向けプライバシーサンドボックスなど、さまざまな変化を前に、MMMはプライバシーが配慮されているため、これらの規制はMMMを使用する上で障壁とはならず、時代の変化に対応可能な将来を見据えたマーケティングツールであると言われています。
マーケティングROIの全体像を把握できる
MMMを適切に使用すると、さまざまな結果と成果を生み出したマーケティングの取り組みとを紐づけることができます。過去のデータから傾向を読み解いたり、マーケティング戦略のROIを正しく把握することで、今後のキャンペーンの結果をより正確に予測できるようになります。
正確な予測を立てられる
ある調査によると、データ主導のシミュレーションを活用して計画を立てる企業は、そうでない企業に比べて少なくとも5倍の成長を遂げている(英語)と言われています。キャンペーンを計画する際に、過去のデータを効果的に活用すると広告予算の配分に基づいてキャンペーンのパフォーマンスを分析するため、収益とKPIの結果を単なる推量ではなく正確に予測できるようになります。
予算とキャンペーンを最適化できる
MMMから収集したデータにより広告予算に最も適したマーケティングチャネルが分かるため、予算を適切に調整することでROAS(広告費用回収率)を最大限に高めることができます。自動化された最新のMMMなら、現行のキャンペーンのパフォーマンスを分析するためのデータをリアルタイムで確認することができます。留意点として、クリエイティブレベル(最適化する細かさの度合い)は、MMMに取り込むデータや情報の粒度よって変わります。
MMMのデメリット
一見複雑に見える
MMMは統計学に基づく分析のため、データサイエンティストやMMMによるソリューションを提供する企業であっても、適切なMMMを設計するには膨大な量のデータを必要とします。しかし、適切な設定を組み込んでモデルを構築することで、そのモデルからアクションにつながるデータを簡単に取得できるようになります。
因果関係は考慮されていない
MMMは、データ上で紐づくものの関係を示すことで多くの疑問に答えを出しますが、その情報により結果に対する原因や理由が明らかになる、というような因果関係(原因と結果)を提供するものではありません。しかし、モデルが的確に構築されているとチャネルの増分や予測などを適切に把握することができるようになります。
時間とコストを要する
MMMを設定するには時間やコストを要します。しかし、適切に構築すると、投資したリソースに見合う結果を得られるようになります。
取り扱うデータが膨大
新しいアプリを開発する際など、MMMによるメリットを享受するには、類似アプリのデータを指標として使用しなくてはなりません。マーケティングにおいて平均値を出す場合、通常何年か分の履歴データに基づいて算出されます。MMMにおいても、少なくとも2年分のデータが必要です。
MMMの活用例
レシピアプリ
レシピアプリなどは、MMMの変数にシーズナリティ(季節要因)を取り入れて、地域別に過去3年間のデータを調べることで、シーズナリティが各地域でインストールにどのように影響を与えているのかを分析するとよいでしょう。例えば、レシピアプリのインストールの増加傾向をMMMによって分析した場合、北米では家族団らんのために手料理を振る舞うことが増える感謝祭やクリスマスの時期、中国では旧正月期間、中東ではイスラム教において神聖であるラマダン(断食月)(英語)の終わりを告げる祝祭のイード・アル・フィトル、と導き出されるかもしれません。
シーズナリティがマーケティングの取り組みの成果にどれだけ貢献したのかを把握することで、季節限定のキャンペーンを打ち出す際など、信頼できる予測を行うことができます。
仮想通貨アプリ
右肩上がりだった仮想通貨アプリなどのファイナンスアプリは、現在、「クリプトウィンター」または「暗号資産冬の時代(仮想通貨冬の時代)」と呼ばれる停滞期に直面しています。このような状況もMMMに取り入れることが可能です。マクロ経済的な要因はアプリに影響を与えるため、検証するに値します。
注釈 :マクロ経済に関するデータは、国際通貨基金(IMF)や 世界銀行、Economagic(英語)などのホームページから抽出することができます。
Eコマースアプリ
衣料品の小売店が店舗とEコマースアプリの両方で商品を販売する場合も、MMMを活用すると、オフライン(店舗)とオンライン(アプリ)のそれぞれに充てる広告予算を最適化する方法や全体像を把握することができます。
例えば、ダイレクトメールへの予算を減らし、その分をクリックすると商品を購入することができるショッパブルコンテンツなどのコネクテッドTV(CTV)広告への予算に充てるとインストールの増加に繋がるのか、というようなことを知ることができます。適切なデータがあると、主にCTVで実施するキャンペーンの結果を予測して、それが最適なアプローチであるか否かを判断することが可能となります。
各カテゴリーに関する情報については、5,000以上のアプリを基にしたインサイトを解説する「モバイルアプリトレンド 2024」をご覧ください。
MMMを活用する
MMMを設定する方法
リソースを確認する
MMMは自社で構築するか、ベンダーに外部委託(アウトソーシング)する方法があります。どの方法でモデルを構築するかを決めたら、まず、構築するためのリソースがあるのかどうかを確認します。
社内のデータサイエンティストとMMMを構築する場合:
社内に分析チームやデータサイエンティストがいる場合は、明らかにしたい疑問に基づく統計モデルを構築するための十分な時間があるのか、必要な知識を持ち合わせているか、ということを確認しましょう。MMMの設計は専門的な分野のため、MMMのツールやライブラリについて精通している必要があります。また、モデル構築の担当者は、モデルによる結果を理解したり、最適化や予測などを行えなくてはなりません。
独自のモデルを構築するためのライブラリ
LightweightMMM
ベイジアン非線形時系列モデルが用いられるMMMのライブラリ「LightweightMMM」は、オープンソースのMMMであるPythonのライブラリとしてGoogleのサイエンティストが構築しました。LightweightMMMを活用すると、チャネルのアトリビューションに関する情報を取得し、複数のメディアチャネルへの最適な予算配分を予測することができます。
RobynのMMMパッケージ
「Robyn」は機械学習を採用して半自動化された、Metaが作成したオープンソースのMMMパッケージです。Robynでは直感的にモデルを比較することができるため、最適なモデルを簡単に判断することが可能です。また、予算を最適化することでROIを最大化できる予算配分機能も備えています。
Adjustは2022年、人工知能(AI)と機械学習(ML)を活用するオープンソースのMMM「Robyn」を使って新しいソリューションを構築する、Metaの「MMM Incubator Program」のパートナーの1社として選出されました。このプログラムでAdjustは、過去のマーケティングデータに基づいてキャンペーンの成功を予測するMMM「予算プランナー」のプロトタイプを構築しました。
上記2つのフレームワークの機能や違いについては、Deloitte社の「高度なマーケティングミックスモデルのためのハウツーガイド(英語)」をご覧ください。
上記2つのフレームワークの機能や違いについては、Deloitte社の「高度なマーケティングミックスモデルのためのハウツーガイド(英語)」をご覧ください。
ベンダーへモデル構築をアウトソーシングする場合:
MMMに特化した企業(ベンダー)に、ビジネスニーズに合うMMMの構築をアウトソーシング(外部委託)することも選択肢の一つです。MMMを提供するベンダーの多くは、予測や最適化機能を備える自動化されたMMMのソフトウェアを利用し、コンサルティングやモデルの構築を請け負っています。アウトソーシングするとコストがかかりますが、作業工数を大幅に削減することができます。
ベンダーに確認すべき事項
MMMの構築をアウトソーシングする場合は、自分たちのニーズに合うベンダーかどうかを知ることが不可欠です。ベンダーに次の質問をして確認しましょう。
- データはどのように収集しているのか?
マーケティングミックスはさまざまなソースから成り、計量経済学モデルを用いて評価します。万一ベンダーが自動化されたプロセスではなく手動によるデータ収集を標準プロセスとしている場合、エラーが発生しやすくなるため注意しましょう。
- 入手できるデータには何が含まれるのか?
この質問によって、ベンダーが業界にどれほど精通しているのかが分かり、展開したいアプリマーケティングに適しているのかどうかを知ることができます。重要なデータへのアクセスがベンダーによって制限されていないことや、適切なデータポイント(計測や調査による実際の情報)を取得できることを確認しましょう。
- 入力されたデータの正確性はどのように確保するのか?
ベンダーがデータの正確性を検証するために、どのようなテストを実施しているのかを確認しましょう。MMMから得られた情報やインサイトを正しい意思決定に活用するには、適切な情報が揃った信頼できるデータによりMMMの統計分析を正しく行わなくてはzいけません。
- どれほどの粒度レベルのデータを提供しているのか?
MMMの目的は、モデルから得られるデータに基づいて必要なアクションを取ることです。万一、分析がチャネルレベルだと十分な最適化ができません。データをドリルダウンして特定のキャンペーンや地域などに基づく詳細なインサイトを提供できるMMMベンダーを選びましょう。
アプリに合わせたMMMを構築する
MMMベンダーとの連携や自社によるモデル構築を問わず、アプリに合ったモデルを構築するには、以下の手順を参考にしてください。
- 明らかにしたい疑問を設定する
- データを収集する
- モデルを構築する
- アウトプットデータを分析する
- 予測と計画を立てる
1. 明らかにしたい疑問を設定する
上述した「MMMで解明できる10の疑問」のとおり、現在抱えている不明瞭な点など、MMMでどのような情報を理解したいのかを決定します。予算の最適化、チャネル別のコンバージョン、キャンペーンの実施、オフラインによるアクティビティなど、調べたい外的要因を検討します。
2. データを収集する
さまざまなマーケティングソースから、モデルに含めいたいデータを従属変数(要因によって影響された結果として表れる変数)と独立変数(要因によって結果に影響を及ぼすか、結果と関連すると考えられる要因となる変数)のどちらも集計します。モデルから得られるデータポイント(情報)を増やすために、少なくとも2年分のデータを含めることをおすすめします。
MMMに含めるべきデータ :
- インストール数、セッション数、継続率
- 有料およびオーガニックのアクティビティ(インプレッションを重視する)
- シーズナリティなどのマクロ経済的な要因(関係性がある場合)
- 広告費用
- 自社で保有するメディア(ブログ、Webサイトなど)
- インフルエンサーマーケティング
- Eメールマーケティング
- 競合他社に関する情報
3. 自社に合ったMMMを構築する
MMMによってビジネス固有の疑問に的確な答えを適切に導き出させるには、MMMに要素を正しく取り入れて構築することが重要のため、データがモデルに合うようにパラメーターを設定します。実装する前には、最低でも4〜6週間はテスト試行をします。
4. アウトプットデータを分析する
モデルをしばらく運用したのち、モデルがビジネス目標全体に影響を与えているかどうかを評価します。導き出されたアウトプットデータ(情報)を、効率性、有効性、投資利益率(ROI)の観点から検証しましょう。
モデルの有効性は、次の点を確認して評価します。
- モデルが次のアクションにつながるデータを提供しているか?
- モデルから得られたアウトプットデータは、広告の頻度や使用するチャネル、広告予算配分など、今後のマーケティングのアプローチに活用できる情報か?
- 予測は信頼でき、ビジネスのパフォーマンス向上を促進しているか?
MMMは、活用しながら改善を重ねていく反復プロセスによって精度を増していきます。構築したモデルが会社のニーズに合っているかを定期的に検証して、必要に応じてマーケティングミックス(取り入れる要素)の最適化を行いましょう。
5. 予測して計画を立てる
ステップ1〜4により、ニーズに的確に合うモデル構築ができたら、モデルから今後のキャンペーンに必要なデータや情報を抽出して、最後のステップである予測と計画を行います。可視化された履歴データを振り返るだけではなく、シミュレーションを行い、KPI(キーパフォーマンス指標)を達成するために最適な組み合わせのマーケティング戦略を見つけ出しましょう。
MMMから得られたデータを活用すると、マーケティングの取り組みの全体像を把握することができ、例えば、ターゲットとするユーザーグループに対して広告を表示する頻度を調整することが可能となったり、広告費用をより多く割り当てるべきチャネルや効果の低い広告を特定したり、オーガニックの効果計測からROIの全体像の把握など、さまざまなことができるようになります。
MMMのアドバイス
MMMの効果的な活用方法
1. 適切なデータソースを選択する
独自のアプリ分析、サードパーティ広告プラットフォーム、オフラインデータソースなど、さまざまなマーケティングソースからデータを収集します。連携しているプラットフォームが透明性のある正確なデータをレポートし、MMMに取り入れられるデータ形式を提供できることを確認しましょう。
アプリマーケターへの2つのヒント
- オプトインを確保する :MMMは集計データでも十分機能しますが、コンプライアンスに準拠してユーザーのオプトイン(同意)を得たファーストパーティデータを使用することで、モデルの精度をさらに向上させることができます。カスタマージャーニーを効果的にモニタリングするために、アプリ内購入やコンバージョン、エンゲージメント、その他のアプリ内でのアクティビティなどのMMP(モバイル計測パートナー)から取得するデータを含めることをおすすめします。ユーザーによるオプトイン率については、オプトイン率に関するAdjustのデータからも着実に上昇傾向にあることが分かっています。
- Datascapeを活用する :AdjustのDatascapeソリューションを使用すると、すべてのデジタルマーケティングデータを1ヶ所に集約することができます。モデルから正確な結果と予測を得るために必要な、純粋で正確なデータをDatascapeが提供します
2. 動画のファイル形式とプラットフォームを区別する
動画は、例えば、コネクテッドTVの広告は、TikTokアプリの「おすすめ欄」に表示されるインフィード広告や、YouTubeにアップされる商品のデモ動画とは異なるなど、動画投稿といっても、さまざまなファイル形式や目的、プラットフォームがあります。動画を一つのカテゴリーでまとめてしまうのではなく、細分化して取り扱いましょう。
ビューアビリティ(実際にユーザーに広告が見られたかを把握するための指標)や視聴時間などの要素は、マーケティングに対してそれぞれ異なる影響を与えます。プラットフォームや、プログラマティック広告のパートナー(連携している場合)は別のものとして分けて、それ以外をメディアチャネルごとに分けることをおすすめします。
3. 変更点をテストしてパターンを特定する
MMMのフレームワークでは、統計分析を使って仮説を検証することができます。例えば、あるチャネルの予算を減らして別のチャネルに充てることが利益を生むのか、といった仮説の検証は、ブランドにとって大きな機会に繋げられる可能性があります。
予測こそ、MMMの最も大きなメリットの1つです。過去のデータを活用して、地域市場ごとに月次、週次、日次ごとの予測を立てると、モデルに適切に微調整を加えることができるようになり、例えば、前年の収益目標を達成するためにチャネルごとに必要な広告予算を予測する、というような、精度の高い予想が可能となります。
4. 計測アプローチをMMMとアトリビューションのハイブリッド化する
MMMはモバイルアトリビューションの代替となるツールではなく、マーケティング分析において「MMMかアトリビューションの二択」というわけではありません。収益を最大化するためには、両方の技術の進歩を把握して、これらのアプローチを組み合わせることが大切です。
あらゆるマーケティングの取り組みを全体から徐々に絞るようにトップダウンさせて捉えるMMMは、正確な予測を可能にした際に真価を発揮します。しかしながら、MMMでは粒度の細かいユーザー行動までドリルダウンすることはできません。一方、モバイルアトリビューションは、下から情報を吸い上げるボトムアップ(下意上達)の視野をもたらし、アトリビューション計測によってユーザージャーニーにおける客観的で正確かつ信憑性がある個々のタッチポイントを把握することができるため、MMMとのギャップを埋めてくれます。MMMをアトリビューションと組み合わせることは、大規模に成長していたり、店舗やデジタルの両方でビジネスを展開しているなど、さまざまな企業にとって非常に有益なアプローチです。
例:MMMとCTVアトリビューションの組み合わせ
「コネクテッドTV(CTV)で市場をリードするモバイルアプリのOTTキャンペーンを作成する方法」にてご紹介のとおり、CTVでのキャンペーンのパフォーマンスを評価するにはインプレッションとエンゲージメントの計測が不可欠ですが、この計測データもMMMに取り込むことができます。
シーズナリティを要素とすると、例えば「年末の1週間にCTVでのコンテンツの視聴が過去2年間で増加があったのか」、「もし増加があったのなら、CTVでのキャンペーンに関する履歴データから何が分かるか」、「この期間中にペイドサーチへの予算を減らしてCTVの広告を増やすと、どのような結果となるか」というような疑問が考えられます。MMMを使うと、これらのアクションが効果的かどうかを予測することができるため、マーケティング戦略の向上に繋げられます。
まとめ
再び注目を集めるMMMは、今後ますますの技術の進歩により強化され、MMMとモバイルアトリビューションとの組み合わせによって、よりインサイトに富んだ全体像を把握することができ、マーケティングの取り組みをさらなる収益へと繋げることができるでしょう。
上述のとおり、MMMはアトリビューションに取って代わるものではなく、この2つは組み合わせて使用することでメリットを最大化することができます。Adjustなら、マーケティングのあらゆるデジタルデータをMMMに取り込んで、これまでのモデルだけでは得られなかった細かな情報を提供することができます。
Adjustでは下記のデジタルデータを提供します。
モバイルアトリビューション :チャネルのパフォーマンスを計測して最もパフォーマンスの高いキャンペーンやクリエイティブを特定します。
ROI計測 :広告費用、広告収益、コンバージョン、顧客生涯価値(LTV)における傾向を計測します。
iOSソリューション :Conversion Hubで、集計されたSKANデータを収集します。
CTVのROI :CTV AdVisionで、モバイル端末とコネクテッドTVの広告の効果を確認できます。
Datascapeで全体像を把握:マーケティングのあらゆるデジタルデータを1ヶ所で確認できます。
Pulseのスマートアラート :KPIや異常検出など、カスタマイズ可能なアラートを設定できます。
Adjustではモデルに活用できる正確なデータを収集して、自動化機能により手作業などの時間のかかる労力を削減するサポートをしています。また、リアルタイムの計測データによってキャンペーンをクリエイティブレベルまで最適化するため、最大限の成果を引き出すことができます。
Adjustは信頼できるモバイル計測ソリューションを提供するモバイル計測パートナー(MMP)として、GoogleのAndroid向けプライバシーサンドボックスのベータ版(初期段階)のテスターとしてユーザープライバシー保護の強化へ取り組んだり、革新的なMMMソリューションの開発を進め、常に技術の進歩の最前線でイノベーションを生み出すことに努めています。
今回のMMM解説ガイドをぜひご活用いただき、Adjustのデータ主導のインサイトによるモバイルアプリマーケティングのサポートや詳しい情報については今すぐデモにお申し込みください。
Adjustの最新情報をお届けします