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モバイルアプリの成功で金銭的な利益と同様に重要となるのが、ユーザー体験が計測可能かどうかです。従来の投資利益率(ROI)は多くの場合、支出に対する収益を表しますが、体験が継続率、エンゲージメント、顧客生涯価値(LTV)に与える影響は見落されてしまいます。
体験からのリターン(ROX, Return on Experience)は、カスタマーエクスペリエンスへの投資を計測可能なビジネスパフォーマンスへ結び付けることでこの問題に対応します。Forrester’s 2024 US CX Indexによると、「顧客重視」の組織はそうでない組織よりも収益が41%速く成長し、継続率が51%高かったと報告されています。McKinseyの分析では、CXのリーダー企業が「CXで遅れをとっている」企業に比べて収益が2倍以上成長したことが示されています。わずかなCXの改善でも、ユーザー離脱の減少とエンゲージメントの向上によって、大きな収益をもたらすことがあるのです。
この記事では、モバイルマーケターにとってROXが何を意味するのか、投資利益率(ROI)と何が異なるのか、追跡すべき主な指標、そしてAdjustがROXの計測と向上にどのように役立つのかを説明します。
体験からのリターン(ROX)とは
体験からのリターン(ROX)は、カスタマーエクスペリエンスの改善によって生み出される価値を定量化するための指標です。アプリの速度やオンボーディングの設計、チェックアウトフロー、パーソナライゼーションなどの要因が継続率、エンゲージメント、コンバーション、顧客生涯価値などの計測可能な結果にどのように影響するのかを確認できます。
モバイルマーケターにとって、ROXを計測することは、ユーザー体験のどの部分が長期的な価値を生み出しているかを把握し、満足度と成果の両方を高めるために優先的に改善すべき領域を特定する上で役立ちます。
ROXとROIの違いを理解する
ROIとROXは、それぞれパフォーマンスの補完的な側面を計測しますが、その内容は異なります。ROIは財務支出の効率性を重視しますが、ROXはユーザー体験品質のビジネスへの影響を重視します。
ROX計測のメリット
ROXを計測すると、カスタマーエクスペリエンスをマーケティング、製品、運用の各部門のリーダーが行動に移せるビジネス指標に変えることができます。これにより、ユーザビリティ、満足度、エンゲージメントが財務的な成果に結び付けられ、チームはよりスマートで統一された意思決定を行えるようになります。
ROXは、ユーザー体験の中で長期的な価値を最も生み出している部分を明らかにすることで、投資の優先順位を判断するのにも役立ちます。個別キャンペーンのROIだけに頼るのではなく、ユーザー体験全体の成果を押し上げる改善に注力できるようになります。
ROXは、デザイン、エンジニアリング、マーケティング、サポートなどの部門をまたいでデータを統合することで、共通の目標に向けた部門横断的な連携を促進します。顧客体験を改善し、その成果を共同で可視化・計測するための共通言語を提供します。
最も重要なのは、ROXによって短期的な成果から持続的な成長へ視点が移ることです。ユーザー体験がどのようにロイヤリティと顧客生涯価値(LTV)を推進するのかを定量化することで、ブランドは新規ユーザー獲得への依存を減らし、既存顧客との関係性を強化できるようになります。
この増幅効果は、感情的、行動的、財務的要因が相互に積み重なり、時間の経過とともにROXを向上させるPwCの「好循環」の概念に反映されています。
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ROXの計算方法
ROXは次の簡単な計算式で求めることができます。
ROX(%)=(ユーザー体験の改善によって得られた純価値 ÷ その改善への総投資額)× 100
フレームワークの手順
アプリの具体的なユーザー体験の変化を計測してビジネスの成果に結びつけるためのフレームワークは、以下のとおりです。
- 具体的な改善点を特定(オンボーディングフローの再設計など)
- コホートかコントロールグループを使用して、変更前のパフォーマンスを計測
- ユーザー体験のKPIとビジネスのKPI(継続率や顧客生涯価値など)の両方を選択
- A/Bテストまたは段階的に展開して変更の影響を特定
- 影響を収益またはコスト削減に変換(購入の増加、離脱の減少、サポートチケットの発行数の低下など)
- 正味価値を設計やエンジニアリング、ツールへの総投資額で割り、100を掛けて算出
例えば、5万ドルをかけてオンボーディングフローを更新し、インストール後7日目の継続率が10%向上、購入が8%増加、第1四半期に推定20万ドルの増収となった場合、ROXは400%になります。
信頼性の高い結果を得るには、ユーザーエクスペリエンス KPI(ユーザー行動)とビジネスのKPI(収益、継続率)の両方を計測する必要があります。次のセクションでは、モバイルアプリで最も重要な指標について見ていきます。
ROXを推進する主な指標
すべてのKPIがROXにおいて同じ重みを持つわけではありません。ROXを効果的に計測するには、カスタマーエクスペリエンスに関する指標(ユーザーがどう感じているか)と、アプリでのユーザーエクスペリエンス KPI(ユーザーが何をしているか)を分けて考えることが有効です。どちらの指標も、カスタマーエクスペリエンスに対するROIを包括的に把握するうえで欠かせません。
カスタマーエクスペリエンスの指標
顧客努力指標(CES)、顧客満足度(CSAT)、顧客ロイヤリティ指標(NPS)
アンケートに基づくこれらの3つの指標は、ユーザー体験の異なる側面を数値化します。CESは、ユーザーが登録や購入などのタスクをどれだけ簡単に完了できるかを示します。CSATは、チェックアウトを行ったりサポートを受けるなど、ユーザー行動直後の満足度を反映したものです。NPSは、アプリをどの程度他者に勧めるかをユーザーに尋ねることで、長期的なロイヤリティを計測します。これらのスコアを合わせることで、ユーザーの使いやすさ、満足度、推奨に関する全体像が提供されます。
顧客のロイヤリティとセンチメント
顧客ロイヤリティやユーザーの感情は、アプリの評価、レビュー、直接のフィードバックといった形で表れます。こうしたシグナルは、ユーザーがアプリに対して抱く感情的なつながりを示すものであり、継続率や推奨によるオーガニックな成長を予測する手がかりにもなります。
アプリのユーザー体験KPI
顧客生涯価値(LTV)
顧客生涯価値(LTV)は、ユーザーが生み出すアプリ関連の総収益を表します。離脱を減少させてエンゲージメントの向上を図ると、顧客生涯価値(LTV)が向上する傾向があります。つまり、ユーザー体験とビジネスの価値が結びついているかどうかがこの指標で把握できます。
継続率と離脱率
継続率(インストール後1日目、7日目、30日目)は、ユーザーが引き続きアプリに価値を見出しているかどうかを示し、離脱率は一定期間にアプリの使用をやめたユーザーの割合を示します。両方を追跡することで、長期的なユーザー行動をバランスよく確認できます。
詳細については、ユーザー継続率に関する完全ガイドをご覧ください。
エンゲージメント
エンゲージメントは、セッション頻度や深さ(1度のセッションでどの程度実行したのか)といった指標を通じて計測されます。エンゲージメントが高いとユーザーが継続的に価値を見出していると考えられ、それは継続率や収益の向上につながる傾向があります。
コンバージョン率
コンバージョン率は、登録、サブスクリプション、購入など、期待されるアクションを完了したユーザーの割合を計測したものです。ユーザーの負担を減らし、CTA(行動喚起)を明確にすることで、この指標は一般的に改善されます。
価値を実感するまでの時間(TTV)
価値を実感するまでの時間(TTV)は、例えば新規ユーザーが教育アプリの最初のレッスンを完了するなど、アプリの中核となる利益をどれだけ早く獲得するかを計測する指標です。TTVが短いほど、継続率が向上します。
アプリのパフォーマンス
読み込み時間、応答性、クラッシュ率を含むアプリのパフォーマンス指標は、ユーザーの満足度と継続率に直接影響します。パフォーマンスの低下は、ユーザーがアプリ使用を停止する主な理由の一つです。
クリック率(CTR)
クリック率は、ユーザーがアプリ内のポップアップ、オファー、メッセージにエンゲージする頻度を計測します。クリック率が高いことはデザインとターゲティングが効果的であることを示し、多くの場合コンバーション率の向上につながります。
業界の事例:モバイルアプリにおけるROXの利用
上記の指標の結果をどのように展開するのかは、アプリのカテゴリーによって異なります。カテゴリーごとにROXによる計測可能な成果をどのように読み取るのかが変わります。
ゲーム
ほとんどのゲームサブカテゴリーで重要なのが継続率などの指標です。効率化されたチュートリアルと安定したパフォーマンスは初期の継続率向上に貢献することが多く、報酬やソーシャルメカニクスなどのエンゲージメント機能はプレイセッションに影響します。両方の指標が向上するにつれて、アプリ内購入(IAP)の機会と広告収益が増加します。
Eコマース
コンバージョン率とCSAT(顧客満足度)は、Eコマースアプリの中心となる指標です。アカウント作成の簡素化、ゲストチェックアウトの提供、支払いフローの最適化により、遅延や障害が低減し、コンバーションが向上します。CSATスコアが高いほど、リピート購入が増え、注文額も大きくなり、顧客生涯価値が向上する傾向が強まります。
フィンテック
フィンテック業界では、オンボーディングと信頼性に関する指標が最優先となります。離脱率やアカウント検証の完了率といった指標は、ユーザーのセットアップがどれだけスムーズかを反映するものです。安全でシンプルなフロー、透明性のあるコミュニケーション、そして迅速なサポートを組み合わせることで、離脱を減らし、継続率を高めることができます。
ROXの未来:AIとパーソナライゼーション
人工知能(AI)は、マーケターによるROXの計測および改善に新たな価値をもたらすものです。データモデリング、適応システム、言語処理の進歩に伴って、ユーザー体験を将来につながる動的なビジネス指標に変える上で、AIが重要な役割を果たすようになりました。過去のKPIにのみ依存するのではなく、ブランドはAIによるインサイトを活用することでユーザー行動を予測し、リアルタイムでユーザーとの関わりを最適化し、感情的なレスポンスを数値化できるようになります。これにより、ROXはより高度で戦略的なツールとして進化します。
予測分析は、行動データを活用して、チャーン(離脱)やコンバージョン確率、LTV(顧客生涯価値)などの成果を予測できるようにします。こうしたインサイトにより、価値が失われる前に対策を講じることが可能になります。たとえば、離脱リスクのあるユーザーに事前に働きかけたり、購入意欲が高いユーザーに合わせたオファーを最適化したりすることができます。
生成AI(GenAI)はアプリ内のパーソナライゼーションの変革も行っています。個人の好みや用途に合わせたコンテンツや推奨商品、メッセージを表示するように、ショッピングやサービスのフローを即座に適応させることができます。これにより、エンゲージメントが向上するだけでなく、パーソナライズされたユーザー体験品質が収益に直接結びつき、ユーザー満足度とビジネス価値とのつながりが強化されます。
同時に、センチメントを認識するシステムでは、ROXが捕捉できる範囲が拡大しています。AIは、レビュー、サポートチャット、音声での対話から感情的なシグナルを解析し、不満、喜び、信頼といった手がかりを特定し始めています。こうした感情に関するインサイトをCX戦略に組み込むことで、企業はユーザーの気持ちに寄り添った対応ができ、ロイヤリティを育む体験の最適化が可能になります。この「感情的知性」はROXに新たな視点を加え、ユーザーの行動だけでなく、その感情や、なぜそれが重要なのかまでを数値化できるようにします。
Adjustのサポート
ROXは、一貫性を持って計測でき、ビジネス成果に結び付けられる場合にのみ価値があります。Adjustは、デバイスやチャネル全体のユーザージャーニーを把握できる正確なアトリビューションと統一されたアナリティクスでこれを可能にします。これらを可視化することで、ユーザー体験の改善が継続率、顧客生涯価値、収益にどのように影響するかがわかります。
Adjust Growth Copilotは、データ関連の質問への回答をわかりやすい言葉で提供することで、さらに一歩進んだ情報提供を可能にします。マーケターは実際の業務に関連するの質問をして、明確で実用的な回答をリアルタイムで入手できます。データ取得の複雑さが軽減されるため、チームは影響の大きな変革に集中して取り組むことが可能になります。
Adjustは、アトリビューションの正確さとAIベースの機能を組み合わせることで複雑なデータを変換し、戦略の策定、チーム編成、持続可能なアプリの成長をサポートするインサイトを提供します。
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